✍️155 寓話

こんばんは

HREdayamです。

とてもフィクション的な
ノンフィクションストーリーを書きました。

宜しければお付き合い下さい。

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ある街に髪の長い服好きの絵描きの男がいた。


彼は毎日のようにアトリエで
キャンバスに向かい、絵を描いている。

そしてその描いた幾つかの絵の中から、
Tシャツにして着たいものを、
たびたびプリントして販売している。


今年の夏も3種類のTシャツを作成した。
その3種類のそれぞれ1枚ずつだけを着ることにしていた。

 

 

自分自身でも気に入ったデザインのそのシリーズを着ると、
自分の作品が日常に溶け込んでいるようで、
とても誇らしい気持ちになれた。

そして、
ファッションの新しい一面を見る事が出来た。

 

 

このTシャツを知ってる人なんてほんとうに少ないけれど、
たまに街で自分のTシャツを着ている人を見かけると、
胸の奥から、もの凄い熱さがあふれてくるのだった。

 

そんなことを重いながら日々を過ごしていた、ある日の午後。

絵描きの男が散歩に出かけると、
家の近くの通りで、
一人のおじいさんとすれ違った。

彼はドラッグストアに立ち寄った後で、
缶ビールとコンソメ味のポテトチップスとヨーグルトを買って、
とても陽気に鼻歌交じりで歩いていた。


その時彼が目にした、
おじいさんが着ているTシャツの
胸元に描かれていたのは、

--紛れもなく、
自分の描いた絵がプリントされたTシャツだった。

 

 

 

絵描きの男は、
心の底から歓喜の想いが突き上げてきて、
思わず立ち止まる。

けれどもすぐに、我に返って、
「あれ?」と首をかしげた。

 

記憶をいくら辿ってみても、
そのおじいさんにそのTシャツを売った覚えが
全くないのだ。


不思議に思い、「そんなまさか…」と胸がざわついたが、
どうにか記憶の糸を解き解して、
お爺さんがそのTシャツを着ている可能性を張り巡らせた。

 

①先日、洗濯を干した日、
昼過ぎからとんでもない突風の吹いていて、
干していたそのTシャツが、とても綺麗に宙を舞って、
少しだけ離れた地面にふんわり落下したの知れない。

②ある夏の暑い日に、その日バスに乗り込もうとしていた絵描きは、
急ぎ足でバス停に向かう途中であとから着替えようとしていたそのTシャツを
気付かぬ間に落としてしまった。

 

どう考えても、可能性はそのどちらかでしかない。


お気に入りのTシャツを失くしてしまったことを思い、
彼はとてもがっかりしたものの、
思考は直ぐに切り替わった。

そして、頭の中でもう一人の自分が囁く声に耳を傾ける。

 

――なあ、そんなに落ち込むな。
どのような経路を辿ったにせよ、
意図せずして自分のデザインしたTシャツが、
きちんと誰かの元に届いていて、
しかも大切に着てもらえているのだから。
とても幸せなことじゃないか!

他の人が拾っていたり、
側溝などに落ちていたら
捨てられちゃう可能性だってあったんだ――


…放心状態だった絵描きの男は、
まるで数時間うずくまっていたような感覚に陥っていた。

実際には数時間も経過しておらず、
それはせいぜい2~3分の出来事だったのである。

 

Tシャツを着たおじいさんは、
まだ彼の視界の端をゆっくりと歩いていた。

 

そして彼はきちんと我に返り、
勇気を振り絞ってそのおじいさんに声をかけた。

 

「突然すみません。
それ、僕が描いた絵のTシャツなんです。」

 

おじいさんは目を丸くしてから、
にっこりと笑った。


「そうかね。このTシャツをどこで手に入れたかは、
とうに忘れちまったが、本当に
とても気に入っているよ!
着ると若い頃に戻ったみたいでね。少し遠くまで歩きたくなるんだ。」

その言葉に絵描きの男の胸は熱くなった。


思いがけない出会いが、


”自分の作品の意味”をより深くしてくれる。


帰宅してクローゼットを開けてみると、
手元にあったはずの一枚が消えている。
しかもそのサイズ――ビッグサイズは、
そもそも一度も売れたことのない代物だった。

それでも良かった。

その日以来、絵描きはますます絵を描くのが楽しくなった。

ごく稀にだが、街で彼の作ったTシャツを着る人を見かけるたびに、
ただ嬉しいだけでなく

自分の絵が誰かの日常を少しでも明るくしているんだ」

と実感できるようになった。

 

服好きの絵描きの男は、
俯きながら微笑み、
心の中でそっとつぶやく。

 

「これは、最高にハッピーな物語だ」

 

人生はこうでなくちゃいけない。
どんどん楽しんでいこう。

 

 

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